僕が剣道をやり始めて4年、5年と経っていくと、後輩の人数が多くなってきました。その中には僕の同級生もいて、話し合える剣道仲間が増えてきて嬉しいかぎりです。
そして、後輩が新しく入ってくると先輩の僕はなんだか偉くなった気分でしたね。
今まで教わってもらってばかりと常に人に頼る立場だったのが、後輩がどんどん入ってくることで頼られている自分はちょっとした優越感を味わってました。
ただ先に剣道を習い始めたということだけで、ちっとも偉くもなんとも無いんですけどね(笑)。
そして、その頃になると稽古がだんだんと厳しくなってきました。
当時小学4年生だった僕への見る目が確実に厳しくなっていき稽古で求められるものも変わっていきます。
■厳しい稽古
僕が4年生になった頃でしょうか。ある先輩との稽古で僕は必死になって先輩に打っていました。最初の稽古は切り返し(連続して面を打っていく稽古)から。そして次は打ち込み稽古。打ち込み稽古は相手の隙を見つけて的確に打っていく稽古のことです。ただ打つにしてもその先輩の前では真剣でした。「めーーん!!」という掛け声でさえも、誰かにアピールしているかのように力強い声を出していたのです。
その稽古をつけてもらっていた先輩の名前は河合先輩といいます。僕よりも3つ上の中学1年生です。この頃の3歳の年の差は大きく感じます。
実際、男子の身体は中学に入ってから急激に成長します。成長段階の河合先輩はまだ小学生である僕から見ればとても大きく感じたのです。
また、それだけでなく河合先輩は剣道に関しても非常に厳しい先輩でもありました。剣道の取り組み方が他の生徒よりも真面目で一途なんですね。
気の抜いた面打ちをするものならば、叱られる上にしっかりした打ち方ができるまで何度も何度もやらされます。僕はこの先輩がとても苦手でした。いつも怒られてばかりでしたし、怖かいという思いが強かったですね。
今から思えば、河合先輩が大きく見えたのは身長の差だけでなく精神的にも圧倒されていたのでしょうね。
そして、その日の稽古は懸かり稽古に移っていきました。懸かり稽古とはどんどんと休まず相手にかかっていく稽古のことで、最も辛い稽古の一つです。
僕はここが頑張りどころだと思い、もう一度アクセルを踏みなおします。
「やーーーー!!こてっ!めーーーん!!」「どぉーーー!!」
はぁはぁと呼吸が乱れながらも、「やぁーーーー!めーーーん!!」と打っていきました。
休まず打っていく稽古だけあって、打てば打つほど苦しい。しかし怒られるのはもっと嫌です。ほとんど強迫観念に近かったですね。それほどこの先輩は怖かった(苦笑)。
「やーー!めーーーん!」
同じ面打ちでもだんだんと振りかぶりが小さくなり、スピードも落ちてきました。もうこの頃になると疲れもピークになり早く終わりたい気持ちで一杯でした。
そして、「はぁはぁはぁ・・・、やー!め・・・」と面を打とうとしたその時、先輩は「待て!!」と突然僕を止めました。
「なんや!!その掛け声は!!もう一回!!」
辛くなってくると「やー」という掛け声がおろそかになってきます。しんどくなればなるほど、「打とう、打とう」という思いばかりが先行して、その前の部分がおろそかになるんですね。そこを指摘されたのです。
無意識におろそかにしていた掛け声を今度は意識的に頑張ってみました。しかし河合先輩は
と認めてくれません。
「なんでや?!」と思いつつ、もっともっと頑張ります。
今回は正真正銘の全力のつもりです!しかし先輩はそれでも許そうとはしてくれません。
厳しいっす、河合先輩(泣)。
「何があかんねん、ちくしょー!」と心で思いながらも(笑)、もうこうなればがむしゃらです。顔を上にまで向かせて
と声がかすれてしまうくらい声を出します!
「よし、こい!」
息が切れた状態でたくさん声を出すのってかなりつらいんですよね。
おかげでさらに稽古がつらくなってしまいました。呼吸は整えられないし、どんどんと動かさせられるし・・・(泣)。もうくたくたです。「早く終わってくれ〜。」と心の中で叫びながら打ちこんでました。
しんどくて長いかかり稽古が終わると、その日の稽古は切り返しで最後になります。切り返しとは相手に連続で面を打っていく稽古なので、疲れている時にするとさらに辛さが増します(T_T)。
「めんっ!」「めんっ!」「めんっ!」・・・・・
・・・・・「めんっ!」「めんっ!」「めーんっ!」
と掛け声とともに竹刀の振りも小さくなっていきます。僕の身体は正直です(笑)。
もちろんそんな切り返しでは終わらせてくれません。
「なんや?!その切り返しは!!もう一回!!」
ともう一回させられます。早く終わりたいんで声だけを大きく振りを小さくして横着な切り返しを再度します。
「めんっ!」「めんっ!」「めんっ!」・・・
・・「めんっ!」「めんっ!」「めーんっ!」
「そんないい加減な切り返しではあかん!もう一回!!!」
と横着な切り返しがばれました。(当たり前ですネ。)
もうこうなれば小細工無し、かたちやカッコ良さなんて気にしていられません。
一つ一つの面打ちをしっかりすることを心がけることにしました。スピードは全くなく、一歩ずつ歩いているような切り返しです。
・
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「めんっ!」
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「めんっ!」
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「めーんっ!」
と、息が切れながらも一つの面を一生懸命に打つことで稽古が終われました。
ふと周りを見渡すと、稽古が終わったのは僕が最後でした。
他のみんなは僕が終わるまでず〜っと待ってくれていました。
もうその日の稽古後はクタクタです。防具を取ろうと思っても当分の間は動けません。そしてぐったりと疲れ切っている僕に河合先輩が話し掛けてきました。
「なんでお前は稽古の始めと終わりとで違うんや?!」
僕は最初言っている意味がよく理解できなかったので、ひとまず黙っていました。
そして、続けて河合先輩が言います。
「こごろー、お前はしんどいからってすぐサボろうとばかり考えているやろ?!そんなんで試合のとき勝てると思うか?試合ではお前が苦しいときは相手も同じように苦しいんや。稽古でも試合でも、苦しいときに頑張れん奴が勝てるわけないやろ!!」
先輩のこの言葉は僕の弱いところをズバッと指摘されたと思いました。
僕は苦しいとき「早く終われ、早く終われ」と思いながら稽古をしていました。稽古が終わりに近づくたびに頑張って稽古をしようという気持ちよりも、早く終わりたいとばかり考えていたのです。
しかし、 第4話 でも登場したマコトは他の人以上の努力をしてました。厳しい稽古が終わっても先輩と一緒に居残り稽古をしているんですね。これは決して他の人に言われることなく、自分自身から進んで居残り稽古をしていました。これでは僕がマコトに勝てるわけありませんよね。
苦しいとき、辛いとき、誰でも逃げ出したいと思うものです。しかし、そこで逃げ出す人には絶対に上達は見込めません。
苦しいからこそ、辛いからこそ、そこに立ち向かっていく人だけが、大きく上達できるのです。
僕の周りには同級生や年下だけでなく、こういった厳しい先輩や先生が多くいたおかげで、剣道ではしごかれた思い出がたくさんあります(笑)。
そして、その先輩や先生たちに苦しいときでも逃げないで精一杯頑張ることが大切なんだと、稽古の中で体に叩きこまされたのでありました。
つづく。
→次回 現在作成中!もうちょっと待ってね。

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