僕が通っていた道場では人があまり揃わないことが時々ありました。特に中学生や大人たちは学校の活動や会社の仕事が忙しいとき、遅れてきたり休むことがあります。
僕が小学4年生だったある日、全く人が揃わなかったことがありました。僕とマコト、そして僕より年下の下級生が数人程度だけで、あとはこの道場を運営している大先生(ご高齢の八段の先生)、そして 前回登場した「強烈な右手使いのおじさん」 だけしか揃わなかったのです。
いつもは、中学生の先輩や大人の先生に稽古をつけてもらえるのですが、その日は全くいなかったので、マコトと僕がちびっ子たちに稽古をつけることになりました。大先生はご病気を持っていたのでこの日も防具を付けず一人一人見て回られていました。
ちなみに、その日が始めて元立ち(稽古を指導する側)に立ったんじゃないかな?いつもの辛い稽古が教える側に立つとこんなに楽なのかって感動したことを覚えています(笑)。
もちろん、それだけで稽古は終わるわけがなく、今度は元立ち側であるマコトと僕だけの稽古が始まりました。大先生は上記の通り稽古が出来なかったので、「強烈な右手使いのおじさん」が相懸かり稽古をしていただくことに。相懸かり稽古とはお互いが相手に懸かっていく稽古のことで、お互いが隙を見つけてどんどん打っていく稽古のことです。
しかし、まだこの時のおじさんは入部してまだ数ヶ月しか経っていなく、まだ僕やマコトとはかなり実力差がありました。
特に僕よりも強いマコトとの稽古では面打ちや小手打ちなどがどんどんと決まっていきます。マコトのスピード、技のキレ、間合いの取り方によっておじさんは防戦一方。相懸かり稽古だったのが見た目ではほとんど打ち込み稽古のようでした。(打ち込み稽古とは元立ちに正しく打っていく稽古のこと。)
しかし、強いマコトでも疲れが見えはじめましました。疲れてきたマコトが引き面を打ち終わった後、動きを止めてしまいました。その時、マコトの隙を見つけたおじさんは、「ここだ!」と言わんばかりに、”グワッ”と大きく振りかぶったのです!
それまで攻められっぱなしでうっぷんが溜まってたのでしょうか。その振りかぶり方は誰が見ても凄まじく全身に力が入っていましたね。猛獣が獲物を捕らえたような、そんな振りかぶり方でした(苦笑)。
おじさんが振りかぶった事に気づいたマコトは、その迫力から完全に動きを止めてしまい、怖がって顔を下に向けてしまいました。
そこにおじさんの強烈な面打ちが・・
相当に痛かったんでしょう・・。この時泣いたマコトを初めて見ました。
剣道で痛い思いをする事はたまにあります。竹刀を使ってますから仕方ありませんね。僕も相手の打ち損じが脇やひじに当たって痛かった思い出はたくさんあります。小さかった頃に胴打ちが僕の脇に当たって泣いちゃったこともありますし。
しかし、マコトの後頭部への一撃は非常に珍しかったので貴重な光景でした(笑)。(マコトには悪いけど。)
もちろんその後おじさんはマコトに謝ってました。その後もおじさんはこの事を非常に気にしていた様子で、僕と稽古するときは全く迫力がありませんでした。
そしてその日以降のおじさんはこれまでの豪腕から出ていた迫力がなくなってしまいました。稽古中でも時間があれば体育館の隅で素振りを何度も何度も繰り返していた姿がありました。力任せの剣道を改善しようとしていたのだと思います。
前回
もお話しましたが、不器用ではありましたが、とても真面目で熱心な方でした。怖かったですけど、嫌いではなかったですね。
ちなみにおじさんが上達するのはもう少し先のことです。
頑張れ、おじさん!
つづく。

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